秩序とはまるで無縁のように思われる海賊たちの行動様式を経済学という文脈で読み解くという本です。
とてもざっくりとポイントを引用。この冒頭部のポイントにしたがって本は進んで行きます。
1.個人は自分の利益を重視する。
2.個人は合理的である。
3.個人はインセンティヴに反応する。
1.は読み誤りやすそうです。実際には他人の利益を全く無視するということではなくむしろ逆で、自分の利益を最大化するために他人の利益を考慮することを言っています。たとえば自分の利益を最大化する為に競合相手より安く売る。消費者の利益を考えることで自分の利益をより大きいものにする。
「自己利益追求者の集団は、それぞれ自分のことしか考えていないはずなのに、それが無意識のうちに他人の支援にも注力することになる」
2.「個人は…目標を達成しようとするとき、自分の知る限りいちばんうまいやり方をしようとする」。
3.個人は何かをやるときにコストが増えればそれを避けようとします。コストが下がればやる回数が増える。便益の増減も同じです。増えればやるし減ればやらない。
こうした意思決定モデルのことを「合理的選択」というそうです。以下は私が「おぉ」と思った箇所。
「合理的選択の枠組みは『通常の』行動にいそしむ『通常の』人だけのものじゃない。異様な行動をする変な個人にも当てはまる」
そう考えるとあらゆる人のあらゆる行動はすべて、当人にとってはえらく合理的なのです。これは「理解できない」という思考停止から逃れる思考形態だと感心しました。
私の散らかった部屋も片付ける時間を後回しにしてブログを書いた方が有益だと私が判断したからです。こうすると部屋を片付けて得られる精神衛生上の改善とどちらが有益かという比較が可能になります。
以上の「合理的選択」を海賊の異様な行動に当てはめていくという本です。
例えば海賊旗「陽気なロジャー(Jolly Roger)」。わざわざ自分が海賊だということもないだろうに、威嚇か? そのとおり、利潤を最大化させる威嚇なのです。この旗を見たら無駄な抵抗をするのは得策ではないと商船の乗組員に思わせる。海賊も抵抗されたときに被る損害を避けることが出来る。
そのために海賊は「血も涙もない」「抵抗したら心臓を抉りとられて食われる」みたいな噂や風聞を巧みに利用し、また実際に苛烈な拷問を行うことで「陽気なロジャー」のブランドを作り上げて行く。それは戦闘(リスク)をなるべく避けて利益をより多く得るための、合理的な戦略なわけです。
そのほか完全な立憲民主制を船上で実現しているなど、人の道に外れた破落戸(ごろつき)というイメージを崩す面白い本です。
この辺を淡々と、やや悲哀込みでコミックにするとサラリーマンの共感を呼びそうです。「大人の『ONE PIECE』」みたいな感じで。
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