コンピューマのMIX『Innervision』であります。ここ何年かの諸作と比較するとテクノ/ハウスに接近しておりますでしょうか。が、やはり曲者と呼ぶべき作品ですし、言葉で以って掴もうとするとするする抜け出てしまいます。
パク・へジンのEP聴いてて、アトモスフェリックじゃのうと唸っておりましたところ、なぜか急にこの作品が脳裏をよぎりました。アトモスフェリックとは、微妙にアンビエントを意味しながら、空間を覆う音の広がりの"感じ"をいうと思うんですが、アトモスフェリックちゅうたらコンピューマはんしかおらんでしょうに。
45分の"part 2"と33分の"part 3"の2トラック。特に想像力が追いつかない感覚になる"part 2"の迫力が凄まじいです。
ダンスを意識しないイーブンキックに、倉庫の片隅に埋もれていたSFのSE集のような奇怪な電子音でかき回す、フロアボムならぬブレインバーナーな様相を呈しています。
808の音っぽいリズムが入ってくる10分過ぎくらいで「ようやくダンスミュージックになってきた気がする」とむしろ安心します。
以降もシンプルなリズムの上を縦横無尽に音が飛び交い、渦巻き、波を打つ。聴いているというよりは「何かを手繰り寄せる」とか「掻い潜りながら先に進む」という感じに近いです。やっぱ音楽を聴いていると音にマッチした情景とかストーリーなんかを無意識に描いているんだと思うんですが、この作品はすんなり描くことができません。笑うしかない。だからそれが「手繰り寄せる」とか「掻い潜る」というイメージに結びつくんだと思います。
そんな混乱を経た後の"part 3"の12-3分あたり。音数が減る場面があるですけど、このスーッと静けさがやってくる感じがたまらない。聴いていてはっとさせられます。yagyaとかのアンビエントライクな優しめテクノっぽい音が、前段の展開を受けて夜の凪いだ海面と星空のコントラストのように穏やかに輝きます。美しくてセクシー。
インターミッションとも言える中盤のアバンチュールを経て再び初期アシッドハウスのような不穏なサウンドが徐々にやってきます。抑えたBPMがまた、むしろ凶悪ですねぇ。ねっとりどっしり、そしてぴゅわんぴゅわん。
音世界がねじれていく、そしてそれに聴いている本人が巻き込まれていく快感なのかどうなのかすらよくわからない感じ。"ハマる"が一番近いんでしょうか。ずっぱまりングですよ本当に。
いつものリスニングとは異なる脳の部位が刺激される劇薬です。用法用量はお守りくださいまし。
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