2020年10月18日日曜日

パリッコ『天国酒場』



 パリッコ『天国酒場』を読見ました。きっかけは友人Nのインスタ。
コメントしてたらパリッコさんが登場したので「これは買わねばまずいな」と思い購入しました。
 Nも面白そうな飲み屋をよく知っています。最近はよく「アーカイヴ化されていない」ことの魅力について語り合うことが多かったのですが、この著書もアーカイヴ化しきれない、店が持つ"情景"に触れたものなのかもしれません。  

 控えめに申し上げても良書です。酒を飲むこと自体はむしろスパイス。これは『逝きし世の面影』の2020年バージョンではないかっ!!

本作のサブテキストは『孤独のグルメ』でしょう。
 『孤独のグルメ』もまた飲食店の持つ情景、風情を丁寧に描いた作品ですね。そして『孤独』は主人公が酒を飲めないという"縛り"を設定することで情景の魅力にフォーカスすることに成功しています。「酒さえ飲めりゃなんとかなる」みたいなグダグダな展開を避けているというわけです。
 『孤独のグルメ』の中に「俺も酒が飲めれば(いいのに)な」という主人公の科白がありますが、読者の多くもまさしくそう思って読んだに違いありません。「こういうとこで小さいコップで飲む瓶ビールがまた格別なんだよな」とか独りごちて缶ビールと冷奴をやりながら『孤独のグルメ』を楽しんだ読者はきっと多いはずです。

『天国酒場』は酒アリの『孤独のグルメ』といえます。酒を傾けながら、周囲に漂う風情を丁寧に描いています。
(酒アリの『孤独のグルメ』って、土山しげると久住昌之であった気がしますが…。)
 往きし日々から取り残されたがゆえに風情を醸す店と、それを取り囲む穏やかな風景の描写を読みながらむしろうっすら寂しくなりました。
 紹介された店のいくつかが今年2020年に閉店しています。他の店もどうなるかわからないのではないでしょうか(なんせノスタルジックな店が多い)。
 新たなウイルスに掻き回された2020年は、様々なところで影響を及ぼしています。
 「美しい」とはまた違う肩の力が抜けた穏やかな風景はしかし、本作の中に残されたまま現実にはその姿を消してしまうかもしれません。とか思っちゃうと切なくてもう...!酒が進む。ノスタルジアは良い酒肴であることにも気付かされました。 

 本作で紹介された"天国酒場"の多くは屋外と屋内の境界が曖昧な場所が多いです。とある造園業の方の話では、国道沿いのうるさい場所でも屋外で食う弁当は美味い、らしいです。好天が条件でしょうけど。 いやしかしテラス席ですらちょっと美味い場合があり、屋外で食うことの開放感、というのは確かにあります。
 境界の曖昧なところでは普段の常識とか行儀とかそういうものも曖昧になり、それが開放感をもたらすのでしょうか。興味深い視点です。

 と、書いて思いついた。視点の提供というのも本作の大事な点かもしれません。屋外と屋内の境界にわずかに漂う雰囲気、レトロなお店が持つ言い知れぬ安堵感、その安堵の中で酒と肴の味わい。情景も酒の味わい。などなど。 この書で得た視点でもって街を、公園を野山を歩く。その日が楽しみでなりません。

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