ロウハウスの出現を用意したのはダブステップと、それに続くポスト・ダブステップだということは言を俟たないでしょう。
と、偉そうに言うことは容易ですが、ではダブステップとは何ぞやという問いは出現から年月を経た今、むしろ答えるのに困難になっている印象を受けます。"ド・ドン・(休符)・ドン"というキックの音をそう呼んでいただけではないか、と。
ポスト期に入ってからはさらに難しくなり「ゴールドパンダってエレクトロニカじゃないの?」などと何度となく思わされました。ジェイムス・ブレイク(JAMES BLAKE)も含め「ポスト・ダブステップ」というジャンル名は多分にマーケティング、セールス用語という機能を持っていたためにそうした混乱は生まれたのだと思います(余談)。
(ポスト)ダブステップはジャンルとしては捉えづらく、リズムとBPMだけが特徴としてかろうじて述べることが可能な気もしなくはないですが、大切なのはこのムーヴメントによって既存のジャンル力学から自由なアイディアを持った才能がたくさん出て来たことでしょう。
ブタの置物、かわいい。ちょうど手足の比率が今の息子くらい♡
ブリアル(BURIAL)、シャクルトン(SHACKLETON)に続くダブステップ〜ベースミュージックの特異な才能、アントールド(UNTOLD)の遅れて来たファーストアルバム。リリース元である彼主宰の[HEMLOCK]はジェイムス・ブレイクの最初のシングルをリリースしたレーベルとしても有名だ。
↓アルバム全体を聴けます。
不穏なサイレン音から始まる本作は一般的なダンスミュージックの音のバランスから幾分ズレた、マッドで地下臭ムンムンのサウンドに仕上がっています。チープな言い方になってしまいますが、<ダンスミュージックにおけるハードコアパンク>を地で行っている音です。
それは「ラヴソングを歌え」というボイスサンプルを執拗にループさせながら渦を巻くような音響をまき散らす"SING A LOVE SONG"などに顕著です。
"SING A LOVE SONG"
狂気が滲み出てますわ
また低音を以上に強調した"STRANGE DREAMS"もまさにパンクなサウンド。最高やでぇ。
"STRANGE DREAMS"
これもまた強烈。ベースの音を聴いてやってくれ。
ノイズミュージックなど実験音楽の要素も含んでいるのでマニアックな印象ですが、先鋭的な音のセンスの目指す先はダンスミュージックに他ならず、クセの強いという言葉では甘っちょろいほど強烈な音はしかしいっぽうで強烈に踊れます。"
語れない(語ることが出来ない)(=UNTOLD)"と名乗るジャック・ダニングが奇妙な音を駆使しながらそれでもなお多大な支持を集めるのはダンスミュージックのプロデューサーとしての才覚、「にもかかわらず踊らせる」才能に他なりません。
ポスト・ダブステップ、ロウハウス、またゴルジェなどの新しい潮流は少し隙を見せればいたずらに抽象的なサウンドに陥る危険性を多分に孕んでいますが、この作品はそうした甘えを許しません。ノイジーでビザールで厭世的にすら聞こえるサウンドでも最高のダンスミュージックは奏でられることをこの作品は証明しています。
そう考えるとこの男もきわめて楽観主義的なのかもしれません。
暴力的に、そして乱暴に鳴らされる音は、僕たちの心象風景にマッチしてしまいます。個人的な体験としましてはブリアルの"STREET HALO"以来の聴き心地です。
不穏。
ここからまた何かが生まれ出しそうな蠢きが音から漏れ出してくる。文句なし。
SOUNDCLOUD流しながらこれを書いていました。これもすんげーかっこいい。
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